「 「年頭小言」はいう。
「涙に頬をぬらしながら逃げていく私を、往来の人は何と思ったことだろう。
私は立ち止まって頬を拭いながら頭のなかで叫んだ。
「日本は亡びない」・・・・・・
万人のために万人に踏まれながら生きている街頭の砂利のような
人たちのうちにこのような「人間」をたった一人見出して・・・・・
上層の日本はどうあろうとも、その下層の街頭の砂利が、
人間というコンクリートで堅固に舗装されていたら、
その上を行く日本は断じて引っくりかえることはない」
この新聞が出て数日後、鎌倉の如是閑邸に
「御茶の水の靴磨きです」
と名乗る青年が訪れた。」
(つづく)
たかぎ